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病院の問診もAIに?AI問診システムの仕組みと活用事例を解説

2025.7.15

2025.7.15

医療現場における業務の効率化や患者対応の質向上を目的として、近年導入が進んでいるのが「AI問診システム」です。少子高齢化による医療現場の負担増、人手不足、業務効率化の必要性などを背景に、多くの医療機関がAIの活用に注目しています。

 

本記事では、AI問診の基本的な仕組みやメリット・デメリット、導入事例、将来の展望について、わかりやすく解説します。導入を検討している方も、まずは全体像を把握しながら読み進めてみてください。

AI問診システムとは

AI問診システムとは、人工知能(AI)が患者の症状や経過を対話形式で聞き取り、診察前に医師に必要な情報をまとめて提供する仕組みです。患者がタブレットやスマートフォンなどのデバイスに表示される質問に答えることで、初診時の問診がデジタル化され、医療者は診察に集中しやすくなります。

AI問診とは?

AI問診は、あらかじめ構築された医療知識ベースと自然言語処理技術を用い、患者の主訴を的確に把握するシステムです。単なる選択式の入力とは異なり、患者の回答内容によって次に提示される質問が変化し、柔軟かつ幅広い情報収集が可能です。

 

例えば、頭痛の症状を訴えた患者に対し、その発症時期、痛みの種類、併発症状、既往歴などを適切な順序で聞き出します。これにより、医師が診察前に患者の状態をある程度把握できるため、限られた診察時間をより有効に使えるようになります。

Web問診との違い

Web問診は、紙の問診票をオンライン上で記入できるようにした仕組みです。多くの場合、定型的な質問を一覧形式で提示し、患者は該当項目を選択・記入します。これにより紙ベースの運用に比べて業務効率は改善されますが、質問の内容が固定であるため、個々の症状に応じた深掘りが難しいという課題があります。

 

一方、AI問診はAIがリアルタイムで患者の回答を解析し、それに応じて質問内容を変化させるため、より的確な問診が可能になります。特に、症状が曖昧な患者や複数の症状を抱えるケースでは、AIによる分岐型の問診が効果的です。

どのような仕組みで動いているのか

AI問診は、以下のような複数の技術と要素によって構成されています。

 

  • 自然言語処理(NLP)による対話管理

  • 医療知識データベースとの連携

  • 機械学習による質問ルートの最適化

  • 文脈理解による質問選定の自動化

  • 回答のスコアリングとレポート生成

 

これらを組み合わせることで、従来の定型的な問診では拾いきれなかった症状やリスク要因の見落としを減らし、診察の質と安全性を高めているのです。

AI問診システムのメリットと導入効果

AI問診を導入することで得られる効果は、業務効率の向上だけではありません。患者満足度や診察の質の向上にも寄与し、さらには経営面での改善にもつながる可能性があります。ここでは、AI問診の主なメリットを具体的に解説します。

業務効率化(受付・問診時間の短縮)

問診業務が自動化されることで、受付から診察までの流れがスムーズになり、待ち時間の短縮につながります。たとえば、繁忙時間帯に患者の集中が起こっても、AI問診によって事前に情報を取得しておくことで、医師の診察準備が効率化されます。

 

また、スタッフによる聞き取りや入力作業が不要となるため、ヒューマンエラーの削減にもなります。

患者満足度の向上と診療精度の強化

AI問診を活用することで、患者は自宅や待合室で落ち着いて問診に回答できます。体調の悪いときに声を出さずに入力できる点や、プライバシーが守られる点も患者にとっては大きな利点です。さらに、得られた情報をもとに医師がより正確な診断を下せることで、医療の質全体が向上します。

導入による経営面の利点

業務効率化により、1人の医師が対応できる患者数の増加が期待できます。また、診療回転率の向上によって収益の改善にもつながりやすくなります。人手不足に悩む医療現場では、AI問診を一部業務に組み込むことでスタッフの負担軽減も可能です。

AI問診システムを理解するために知っておきたいこと:デメリットと課題

AI問診システムには良い点だけでなく、実際に使ってみないとわからない注意点もあります。ここでは、そうした現場でのリアルな課題や気をつけたいポイントを解説します。あらかじめ把握しておくことで、スムーズな導入や現場での混乱回避にもつながるでしょう。

高齢者やITが苦手な層への対応

操作に不慣れな高齢者や外国人患者にとって、タブレットやスマートフォンでの問診は障壁になる可能性があります。そのため、院内でのサポート体制や紙の問診票との併用を検討したほうがいいかもしれません。また、操作方法の案内を視覚的にわかりやすく表示するなどの工夫も求められます。

コストや初期導入のハードル

AI問診は多くがクラウド型の月額課金制であり、初期導入費用や運用コストが継続的に発生します。費用対効果をシミュレーションし、院内の予算に見合うかどうかを慎重に判断する必要があります。また、安価なプランは機能制限がある場合もあるため、導入前の比較検討が欠かせません。

運用負荷や職員のITリテラシー問題

職員が新しいツールに慣れるまでの教育期間が必要です。特にシステムが日常業務にどのように組み込まれるか、受付・看護・医師の各段階での導線が明確になっていないと、逆に混乱を招く恐れもあります。導入時には小規模な試験運用から始め、課題を洗い出しながら進めることが望まれます。

AI問診システムの導入事例と活用シーン

では実際の医療機関では、どのようにAI問診が使われているのでしょうか?見てみましょう。

中小クリニックでの導入例

AI問診を導入している中小クリニックでは、来院前に患者が自宅で問診を済ませるようにしているところがあります。その結果、院内の待機時間や接触機会を減らすという効果が得られています。スタッフの受付務や入力作業が削減されることで、医療事務の効率も改善されました。

総合病院での活用事例

刈谷豊田総合病院日本海総合病院などでは、電子カルテや予約システムと連携したAI問診の運用が始まっており、患者情報の正確な記録と診療支援に貢献しています。複数診療科で同時運用することで、院全体の業務効率を底上げする取り組みも進んでいます。

どのような診療科に向いているか

AI問診は特に初診患者が多い科で効果を発揮します。たとえば、内科、小児科、整形外科、皮膚科などは症状が多様で、聞き取りの幅広さや柔軟さが求められるため、AI問診との親和性が高いといえます。また、女性外来や精神科など、対面での問診にハードルを感じる患者が多い科でも活用されています。

AI問診システムを導入する場合に気をつけたいポイント

AI問診に関心を持った方の中には、「実際に導入するとなると、何を確認すればいいのだろう?」と気になっている方もいるかもしれません。ここでは、導入を前提にしたときに押さえておきたい視点や比較検討のポイントを、医療現場の流れに沿って整理しています。

ツール選定時の比較ポイント

AI問診システムを比較・検討する際は、複数のサービスを並べてチェックすることが大切です。特に次のような観点は、導入後の運用に直結する重要なポイントになります。

 

  • 導入費用と月額料金

  • UI・UXの使いやすさ(患者・スタッフ両面)

  • 多言語対応の有無(地域特性により重要)

  • 電子カルテ・レセコンとの連携可能性

  • サポート体制や導入後のフォロー内容

 

こうしたポイントを医療現場の状況と照らし合わせながら確認することで、自分たちに合ったツールを見つけやすくなります。

現場での試験導入とスタッフ教育

まずは一部の診療科や限られた時間帯で試験的に使い始めて、現場の意見を聞きながら少しずつ本格的な導入につなげていくと安心です。また、スタッフが戸惑わないように、使い方のマニュアルを整えたり、簡単な研修を行ったりして、スムーズに使えるようにしておくことも大切です。

電子カルテや既存システムとの連携は可能か

電子カルテ、予約・受付システム、レセプトコンピュータなどとの連携状況を事前に確認しましょう。データの二重入力が必要な状態だと、業務効率が逆に低下する恐れがあります。ベンダーとのすり合わせも重要です。

AI問診システムの今後と広がる可能性

AI問診システムは今後も進化を続け、より多様な医療現場での活用が期待されています。ここでは、今後注目される方向性について簡単に触れていきます。

生成AIとの連携やアップデートの可能性

ChatGPTなどの生成AIを活用することで、より自然な文章で患者と対話したり、複雑な症状の聞き取りを精緻化したりする動きも始まっています。対話型AIとの連携によって、AI問診の自由度と人間らしさが高まり、利用者の負担軽減にもつながることが期待されます。

地域医療・在宅医療への広がり

今後は、病院内だけでなく、在宅医療や訪問診療、オンライン診療といった幅広い場面でも、AI問診の活用が少しずつ広がっていくと考えられます。すでに一部では導入が始まっており、今後は地域包括ケアやかかりつけ医制度と組み合わせることで、より一貫した医療サービスの提供が期待されます。

行政や保険制度との連携が進む可能性も

将来的には、AI問診が標準的な問診手法として行政のガイドラインに組み込まれたり、公的医療保険の対象となる可能性もあります。現時点では、こうした制度的な整備はまだ行われていません。しかし、一部の医療機関でAI問診の導入が進められており、今後の政策動向によっては全国的な普及が進むことが期待されます。導入コストの軽減や医療アクセスの向上につながる取り組みとして、注目も高まっています。

まとめ|AI問診システムの活用で、医療の質と効率の改善が期待できる

AI問診システムは病院やクリニックでの問診をスムーズにし、医師の負担を減らしながら、診療の質と患者の安心感を高める新しい手段です。導入にあたっては費用や運用体制などの確認が欠かせませんが、今後さらに多くの医療現場で使われていくと考えられています。

 

患者として利用する立場でも、AI問診の仕組みを知っておくと、診察の流れや医師とのやり取りをよりスムーズに進められる場面があるかもしれません。まずは身近なクリニックなどで、どのように取り入れられているか注目してみてください。